〜SAJ〜 Stepfamily Association of Japan

子連れ再婚家族のための支援団体

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山崎 美貴子氏

新たな日本の家族支援に向けて

神奈川県立保健福祉大学
保健福祉学部長 教授
山崎 美貴子 先生



これまで、我が国の家族は、主に両親がそろった「一般」の家族か、母子、父子世帯か、といった形で語られることがほとんどでした。一見両親がそろっている「一般」の家族のなかに、ステップファミリーという家族形態があること、つまり、再婚などによって血の繋がらない親子関係が存在すること、また同居している両親の他に、別れた父母を持つ子どもたちがいること、血の繋がった、または繋がらないきょうだい関係が、再婚という事態によって、さまざまな形で発生していることに、まだ社会的な認知ができているとはいえない状況にあります。一方で、離婚率は増加の一途を辿っており、再婚によって新たな家族が生まれる事態は、決してめずらしいものではなくなってきています。これは、ちょうど今回来日されるSAAの創設者であるヴィッシャーご夫妻が再婚された1970年代のアメリカの状況と重なるところが多いのです。
今回、ヴィッシャー夫妻をお招きして、当時のアメリカの状況やそこからステップファミリーの支援組織をどのように築いてきたのか、当事者と専門家がどのように協力関係を作り、ステップファミリーの支援システムを具体的にどう提供してきたかについてのお話を伺い、日米のステップファミリーとその支援者の交流を図っていこうとする、SAJのこの試みは大変意義あるものと思います。この講演会をとおして、多くステップファミリーの方々の交流のきっかけが生まれ、専門家の方々のこの問題への認識が深まることで、21世紀の新たな我が国の家族支援のあり方に一石を投ずることになることを期待してやみません。


2001年11月3日 SAA代表マージョリー・エンゲルさんによる、当事者向け講演会 「ご挨拶」のスピーチより
みなさま、本日、こうしてステップファミリーの皆様方が集うことができることになったいきさつを振り返りますと、最初ご挨拶を頂きました春名さんはじめ、当事者の皆様方が「よし、こういうことをやってみよう」という決意をされたことが、大きなきっかけではないかと思います。今日、司会をして下さっているステップファミリーの皆様方のお力があると思います。

以前、わたくしは、「ジンジャーブレッド」というイギリスのシングルマザーの当事者組織を訪問したことがあります。ジンジャーブレッドとは、皆様、ご存知かもしれませんが、しょうがの入っているビスケットのことなのですが、このひとり親の活動を始めた代表の女性に、私はどうしても会いたいと思い、訪ねたわけです。それはロンドンのダウンタウンに近い所にあり、とても小さなオフィスでした。そこには、色々な人種、もちろん黒人の方も、ヒンズーの方も、いろんな方がおいでになっていました。そこで活動の中心になっている女性の方に初めて私が会ったのですけれど、「よく来たね」と言ってくださって、その方のおうちでディナーまでごちそうになりました。

その方はある日ご主人が、玄関の所に大きなかばんを置いておかれて、そして「僕は今日からこのうちを出ることにした」というふうにおっしゃったそうです。「どこに行くの?」「どうするの?」と尋ねても、「いや、もうこれ以上、僕はここで生活しないことに決めた」とおっしゃったそうです。そのお宅には、子どもさんが3人おられました。5歳と3歳と1歳の子どもさんでした。男の子ばかりでした。ご主人は、よくテレビでやっていますが、救急医療の最前線のお医者さんだったのですね。ご主人が多忙であるとは理解していても、彼女自身は、3人の男の子の育児に忙殺されていました。そして、ご主人が何を考えているのか、その日になるまでわからなかったし、出て行かれてもわからなかった。「なぜなの?」「なぜなの?」「なぜなの?」という疑問を抱えて最初の半年間は、血まなこになってご主人の行方を探したそうです。でもご主人がどこにいらっしゃるのか、わからない。そして彼女は、それから一種の鬱状態に入ったそうです。そして1年半たって、これまでの生活は全て失われ、彼女は今まで住んでいた家を手放して、ひとりで子どもさん3人を育てるために、日本で言う生活保護を受けることを決めたそうです。

そして、ひとりで3人の子どもさんを育て始める過程で、「私みたいな思いをしている人がおそらく、きっと、このロンドンの街にもたくさんいるだろう」と考えた彼女は、何人かに連絡をし始めた。すると、そういう方が10人ほどおられることがわかって、みんなで「ひとりひとりの悩み」じゃなくて、「みんなの悩み」にして、みんなでこれを発信していける組織にしようと考え始めたそうです。その結果「ジンジャーブレッド」という組織が、10年ほど前だと思うのですけれども創設され、そして今では、イギリスの中にたくさんのステップファミリー、ワンペアレントの方々の当事者グループが出来上がっていったそうです。

ジンジャーブレッドもSAJもそうですが、大事なことは、同じ立場に立っている人たちが、ばらばらに模索し築いてきた体験や情報をわかちあうことのできる組織を作ることだと思います。それから、春名さんがコロラドに飛び、アメリカのステップファミリー組織に出かけて行かれたように、組織間のネットワークを築いていくことではないでしょうか。

日本ではややもすると、子育ての問題、家族の問題は、例えば、虐待をされている子どもであっても、暴力を受けているお母さんであっても、例えば警察などに行って相談したとしても、「そんなことは、個人のことでしょ、家庭の中のことでしょ」と言われる傾向がありました。しかし、そのような時代はようやく終わろうとしています。やっと、子育ては社会の仕事、つまり家庭の中だけで考えることではないのだ、ご夫婦のいろいろな問題も、自分たちだけで考える時代ではなくなったのだ、という時代になってきました。

ところで「ワンペアレント」つまりひとり親という言葉も、実はそういう過程から生まれた言葉です。今から、30年近く前になりますね。1974年にイギリスで、家族福祉に関する有名な報告書が出ました。その中で、ワンペアレントという言葉が使用され、世界中にこの言葉が広がっていったのです。

なぜかというと、それまでは、ひとり親というと、変な話なのですが、欠損家庭とか崩壊家庭とか、ひどい人によっては片親家庭というふうに呼んでいました。これは、言葉そのものに負の価値をつけた表現です。つまり、両親家庭が普通の家庭、そしてひとり親になったり、それからステップファミリーになったりすると、普通の家庭じゃない、ちょっと違う、というふうに言われる。このちょっと違うというのが、実は非常に心を傷つけられます。

これからは、多様な家族の時代を迎えます。いろいろな家族が現実に存在する時代だと私は考え、これまでワンペアレントという考え方を、日本中に普及しようという運動をしてきました。そして、今は、東京都だけでなく、児童福祉法の改正後、全国でこのひとり親という言葉が定着することになりました。この間、およそ30年かかったのです。

さらに振り返ると、家族だからみんなが我慢しなければならない、家族の為に私達は自分を犠牲にするという時代が随分長かったと思います。でも今は違うと思います。ひとりひとり家族の中の関係、いろんな人がいろんな形で家族を大切にしていくというその時代に、私達は今立っているのだと思います。ある人は、それを「家族の個人化の時代」などというふうに言ったりしますが、家族がみんなで犠牲になりあうというのではなくて、家族の生活をみんなでクリエイトしていく、作っていく。

私はよく言うのですけれども、家族生活というのは実は問題解決のプロセス、過程なのだと思います。それぞれのステージ、子どもが生まれたら、あるいは新しい家族に出会ったら、というふうに、次々に子どもが成長する過程、それから夫が失業したり、妻が体を壊したり、いろいろなことが家族生活の中で起こります。それをいろいろな形でみんなで協力しあってやっていく上で、時には協力できないという現実もあります。

ですから、情報を共有したり、同じ目線で同じように横に並んで歩ける仲間たちの中で、これは個人のことではない、一緒のことなのだということを考えて、こういう組織を立ち上げる努力をされました春名さんをはじめ、皆様方の力をとても大切にしたいと思います。

SAJの活動の柱には、当事者間の交流の場を作って、みんなで心を開いて安心して話し合える機会を作っていこうということ、もうひとつ、先ほどちょっとご紹介がありましたけれども、当事者と専門家と言われる人々が一緒にプログラムを考えたり、調査研究を実施すること、あるいは児童や家庭問題に関わるソーシャルワーカーやサイコロジスト(心理専門職)の人々との合同の会議の開催を図っていくという活動などがあります。そして、その次に大事なこととしては、ステップファミリーに関して、こういうサービスがあったらいいとか、こういう支援策があったらいいとかいう具体的な提案を、みんなで声を合わせて社会に発信していくことがあります。

先進国のアメリカでは、3人に1人がひとり親、あるいはステップファミリーを形成していると言われています。このことの持つ意味は重要です。スウェ-デンの場合には、家族法が実は3つあります。ひとつは、日本と同じように、婚姻という関係によって作られた家族法です。ふたつめは、コ・ハビテーション(同棲)という事実婚によって結婚した場合も、婚姻と同じような役割と資格、そして権利を保有できるという家族法です。そしてさらに、私達は女の人同士、男の人同士を夫婦とはなかなか思えないのですが、そういうホモセクシャルな夫婦の場合も、それを家族とみなす家族法があります。

多様な家族というものを、私達が承認する社会に向けて歩んで行く時、権利の問題で、夫婦別姓でさえもなかなか社会的に承認されない日本の中では、やはりまだまだいろいろな障壁があります。今度のいろいろな家族に関する法律の改正の動きもありますけれども、なかなかすぐには前には進まない部分もあるでしょう。

そうした障壁を一つ一つ越えるために、一緒に勉強したり、学んだりする機会、そして何よりも、夜中に小さな声で「あのさぁ」と言ってお電話できる同じような悩みを持っている仲間との、今日と明日との2日間のみですけれども、いい出会いがあったらいいと思います。幸い、ステップファミリーとしての様々な経験をお持ちのマージョリーさんを今日、お迎えしておりますので、ここでそのお話を伺いながら、学びあう機会になったらいいと思います。

どうもありがとうございました。

※肩書きは2001年投稿当時のものです

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